落花は枝に還らずとも 会津藩士・秋月悌次郎 中村彰彦

秋月悌次郎といってもほとんど知られていないのではないか。
私も以前大河ドラマを見て、司馬遼太郎の歴史エッセイの中で取り上げられていたのをどうにか思い出したくらいだ。

幕末には、いろいろな有名人がいるが、会津藩というと藩主の松平容保が一番知られていて、会津藩本体よりも新撰組の方が幕末ファンには、なじみがあると思う。

そんな秋月悌次郎を主人公にした中村彰彦の本を読んだ。
司馬遼太郎のエッセイでは、京都での公用方(諸藩との対外関係を扱う外交官)に彼が抜擢されたのは、会津藩には珍しく、幕府の昌平坂学問所に長年在籍していて、他の西国の諸藩では当たり前の他藩との交友関係が秋月にあったからだと書かれていた。

この小説を読んでいると秋月は、薩摩や長州にありがちな、権謀術数とは、程遠い人物である。
学問一筋の人間で維新後、五高の漢学教授になるが、学者こそふさわしい人物である。
五高時代、同僚だったラフカディオ・ハーンから神のごとき人と言われた人物である。
何かこういう人物を公用方にせざるを得なかった会津藩に幕末の悲劇があるような気がする。

この小説は、幕末の彼の京都での活躍を描いているが、今までの幕末ものというと尊王方から描いたものがほとんどなので、いろいろ新鮮で面白い。
会津藩内部の状況がわかってそれも興味深い。
幕末ファンには、お勧めの一冊である。