皇帝フリードリッヒ二世の生涯 塩野七生

塩野七生の本は大体読んできた。

あの長い「ローマ人の物語」全15巻も読んだ。
なぜ読み続けてきたかと言えば、自分の歴史好きということが一番大きいだろう。
普段は、日本史の本を読むことが多いが、彼女の著作は、見知らぬ国の歴史を書いたものでも何か違和感なく読めるのだ。
外国の歴史ものだと何か、読みにくさを感じてしまうのだが、塩野七生の本には、それを感じることはまずない。
何か日本史の本を読んでいるのと同じような感覚で読めるのだ。
それは、日本人の読者に読みやすいように基本的なことを説明しながら書いてあるということが大きいかもしれない。

 

今回読んだのは、神聖ローマ帝国皇帝でシチリアの王でもあったフリードリッヒ二世の物語である。
日本ではほとんど知られていない人物である。
高校の歴史の教科書には登場したかもしれないが、覚えていない。
だが、読んでみると、なかなか面白い人物である。
シチリア島というキリスト教イスラム教という二大文明の混ざりあった場所に生を受けたことが、その面白さを生んだような気がする。
当時のシチリア島は、二つの文明が対立することなく、共存していた土地であった。
このことが中世は、二つの宗教の対立が今以上に激しかったイメージしかない、私にとっては、意外である。
こんなことが中世にあったのかと。

 

そして、フリードリッヒは、イタリア語、ドイツ語、ラテン語だけでなく、アラブ語も使えたというのが、驚きである。
こんな人物だったから、イスラムとの融和ができたのだろう。
その後、十字軍を率いてパレスチナに向かうが戦闘をすることなく、話し合いにより、エルサレムの王になる。
エルサレムは、キリスト教徒のものになるが、イスラム教徒にも居住する権利を認めたのだ。

 

だが、その反面、ローマ教皇との対立は、ずっと続く。
何か宗教が政治に口出しするのが、災いの元だと、著者は伝えたいかのようである。
現代にも言えるのではないかと。

現代人は、歴史に教訓を見出しがちであるが、この物語は、単なる読み物としても面白い。
上下二巻の長い物語であるが、読んでいる間は、私は、ずっと中世を旅できた気がした。
今より国家意識がない時代だから、国境の壁はほとんどなくて、旅はしやすかったようである。