人間の証明 森村誠一

森村誠一の小説である。作家生活50周年フェアで刊行されたものである。

いまは、作家としてデビューするチャンスは、いろいろと多いから、作家になることは、簡単だが、あり続けることは難しいといわれている。
そんな中50年も第一線の作家であったということは、大変なことだ。
才能もあるだろうが、日々の努力もあっただろう。

また、大分前に角川映画で映画化されたことがあり、そのときの大々的な宣伝の記憶はあるのだが、実際に小説を読んだのは、今回が始めてである。

 

長い長編だが、一気に読むことができた。
読んだ最初の感想は、松本清張の「0の焦点」に似ているな、ということだ。
第二次世界大戦後の米軍占領時の因縁が犯罪の元になっている点がそう感じさせたのかもしれない。

主人公以外のひとりひとりの登場人物にもみな因縁がある。
探偵役の刑事にも無論そうだ。
最後になって、それらがすべて結びつき、読者は、納得する。
一見関係ないエピソードも物語に最後は結びつくのは、作者の見事な技量を感じさせる。

 

松本清張との違いは、森村誠一には、それほどの重い社会性が感じられないことだ。
これによって、読者は、この小説をエンターテインメントとして楽しめるので、そんなに深刻にならずに済む。
無論、清張のようなシリーアスな社会性を求める読者には物足りないかもしれないが。

この小説は、昭和52年に刊行されたものである。
だが、今回読んでみても古さは感じない。
犯罪者の動機は今の世でも納得できるものである。

推理小説というと消耗品という印象があるが、この小説を読んでいると長く読み続けられるような気がする。

 

実を言うと、この小説の存在は知っていたが、長年読んでこなかったのは、発売当初角川映画による集中的な宣伝がなされたことに対する反発だと思う。
無論大量に本も売れた。
そんなことに反発してのことだった。

だが、今読んでみるとあれだけ売れたのは、広告のためだけではなかったことが、わかった。
森村誠一は、松本清張とならぶ推理小説の古典作家になったのではないか。