坂本龍馬の「私の履歴書」 八幡和郎

坂本龍馬といえば、幕末でももっとも有名な人物のひとりである。

いろいろな本が書かれているが、この本は、この虚像の多い人物の実像に迫ったものである。
履歴書風に年代に沿って、真実の龍馬を確実な資料で追っていったものである。
ただ、龍馬英雄史観に反する、こういう視点の本は、無数に書かれているので、正直あまり新鮮さはない。
だが、年代順に描かれているので、虚像の部分と真実の部分とが整理されることは間違いない。

このような本を読むたびに思うことは、司馬遼太郎の「竜馬がいく」の影響の大きさである。
すべてはここから始まったといってもいいだろう。
この本がなければ、龍馬を英雄視する風潮もなかっただろうし、逆にアンチ英雄史観の本もこんなに出なかったにちがいない。
多分、幕末の英雄は、西郷隆盛桂小五郎に尽きたのではないか。
幕府側としては、新撰組近藤勇ぐらいであろう。
土方歳三を挙げる人もいるが、土方の人気もこれも司馬遼太郎の「燃えよ剣」以降であるから、ちょっと幕末の人物としては、さびしい状態になっていただろう。

今たくさんの時代物が書かれているが、司馬遼太郎がしたように、今まであまり取り上げられていなかった人物に焦点をあてる作家はいないのがちょっとさびしい。
明治期には評価されていたが、今はすっかり忘れられてしまった人物を取り上げるのも一つのやり方ではないか。
例えば、長州だと維新の十傑には、上げられているが、もう誰も知らない、広沢真臣とか。
大河ドラマは、長州を舞台にしたものだが、広沢真臣がどのように登場するか、楽しみだったが、完全にスルーされてしまった。ちょっと残念だった。