色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹

村上春樹の一番新しい長編である。
もう二年近く前に出版されているが、図書館の予約の順番を待っていたので、こんな時期になってしまったのだ。

読んでみると相変わらず、面白い。
一晩で一気に読んでしまった。
高校時代の四人の友人から付き合いを断られた理由を探るという出だしである。
本人は、その理由がわからず、死をも考えたほどである。
最初から引き込まれてしまった。

村上春樹は、初期の「風の音を聞け」からずっと読んでいるが、途中からは、ストーリーの面白さに引かれて、読み続けている。
物語を作るうまさをいつも感じてしまう。
ストーリーテラーであろう。
ジャンルとしては、彼は、純文学になるようだが、エンターテイメントの分野でもこれだけのストーリーテラーは、いないのではないか。

毎年、ノーベル賞の候補にあがるが、落とされる理由の一つには、彼の小説の持つエンターテインメント性だと書かれた記事を読んだことがある。
うそか、本当かわからないが、なるほどと思った。

それにくどいほどの比喩も健在である。
もっと簡潔な文章を好む人もいるかもしれないが、わたしは、このくどいような比喩が好きである。

ただ、この小説がエンターテインメントではないのは、最後のエンディングである。
恋人と別れるか、別れないかが、示されないまま終わっている。
余韻を残したままの形である。
本当のエンターテインメントだと終わりまで作家は書く義務があり、どんでん返しがあるのだが、それがないので、エンターテインメントに慣れた読者だと物足りないだろう。
正直言うと、私もそう思っている読者なのだ。
今回ももっと書いてほしかった。
恋人との関係がどうなるか知りたかった。
ちょっとこれだけは、無理な注文かもしれないが。