女のいない男たち 村上春樹

東京奇譚集以来の短編集である。

珍しく書いてある「まえがき」をみるとビートルズのサージェントペパーやビーチボーイズのペットサウンドのようなコンセプトアルバムを念頭に置いたとあった。
だから「ドライブ・マイ・カー」とか「イエスターデイ」といったタイトルがあったのか、と推測した。

 

だったら、全編ビートルズビーチボーイズの曲のタイトルにしてほしかった。
二つのグループの曲には、他の短編のタイトルにぴったりのものは無数にある。
例えば、ビートルズなら「イン・マイ・ライフ」とか「テル・ミー・ホワイ」とかいくらでもある。
ビーチボーイズも同じだ。

 

さて、この作品集の中で一番気に入ったのは、正直悩むけど、「シェエラザード」かな、と思う。
私自身が千夜一夜物語が好きということもあるし、不思議な女性が定期的におとづれて、奇妙な話をするというのも面白い。
自分の好きな男の子の家に忍び込むというは、読んでいてドキドキした。
何か自分が思春期にでも戻ったみたいだった。
無論、本当の千夜一夜物語のようにオチはなく、話は途中で終わってしまうのが残念なのだが。

 

誰かにオチのある続編を書いてほしいものだ。
ポールの曲の終わりにジョンがまた別のメロディーをつけた「アイブ・ガッタ・フィーリング」のように。
あるいは、ジョンの曲にポールがメロディを入れた「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のように。
無論、人によっては、そんな終わりを期待しない人が多いのだろうが。

久しぶりに長編と短編を読んで、村上春樹ワールドを堪能した。
今度の新しい作品は、いつになるのだろう。
ビートルズ風にいえば、「イット・ウォント・ビー・ロング」なのだろうね。