今古探偵十話 岡本綺堂

岡本綺堂は、好きな作家で半七捕物帳はよく読んでいる。

推理ものとしては偶然性に頼り、どうかと思う部分はあるが、江戸情緒は、昨今の時代物では、味わえないもので、当時の雰囲気が出ているので、何度も読んでしまう。

 

さて、今回は、そんな岡本綺堂の探偵小説をまとめた短編集を読んだ。
今まで岡本綺堂の小説は、ほとんど読んだつもりでいたが、ほとんど今まで読んだことのない短編が並んだ。
時代も戦国時代から現代まで、と言っても大正時代に出版されているので、平成の世に生きる今の読者にとっては、現代ではないだろうが。

 

探偵ものといっているが、物語は、ほとんどが動物による怪異談が多い。
それは半七捕物帳でも同じだった。
この短編集も蜘蛛や馬といった動物が登場する。
だが、無論出だしは、不思議で、理屈では、説明できないようなものであっても、最後は合理的な説明はされる。

中には、はっきりとした説明のないまま、読者の想像に任せてしまうものもあるが。

 

そんな中、一番印象に深いのは、最初に載っている「ぬけ毛」である。
物語は、現代で、と言っても、大正時代と思われるが、温泉宿に宿泊する二人の女性を中心とした物語である。

二人の女性の愛憎劇を中心に物語は、進むが、大正時代の雰囲気が新鮮である。
当時の人にとっては、何でもない描写が平成に生きる人間には、新しい。
それに当時の上流階級の女性の雰囲気もいい。

 

今だったら、推理小説にもならないエピソードだろうが、綺堂に書かせると、面白い。

綺堂の小説は、他にも未発表のものがあるようなら、他も読んでみたいものだ。