もう一つの維新史ー長崎・大村藩の場合ー 外山幹夫
幕末期の諸藩の動きというのは、いろいろ興味深いが、この本の舞台になった大村藩は、よくドラマや映画の幕末ものに出てくる薩摩藩、長州藩に比べるとなじみがないものでしょう。
だが、この本によると尊王派と佐幕派との争いが大村という2万7千石の小藩を震撼させたことが描かれています。
それは、イデオロギーの争いだけではなく、私怨も混ざったものだというのが、この作者の書きたいところです。
尊王派の中心は、渡辺昇で、この物語の主人公でもあります。
剣客としても有名で、維新後は大阪府知事にもなった人物です。
この本も彼を中心に進行します。
しかし、注意しなければならないのは、渡辺昇に対しての作者の見方が少し偏っていることです。
そう感じるのは、私だけかもしれませんが、作者の独断がかなり入っているようです。
とはいえ、その独断がこの本を面白くしているのも確かです。
一人の若侍が、尊王という名のもとに個人的な恨みのある家老一派を佐幕派として追い詰めていくとう展開は、とても面白いです。
とはいえ、いろいろ疑問もあります。藩の重役でもない若侍がなぜ家老一派を追い詰めることができたのか。
江戸時代という身分社会の中では、今以上に地位のない侍には、難しかったのではないかと。
でも、この本を読むと意外と実力社会だったのかと思ってしまいます。
幕末という混乱した中では、あり得たのかとも感じてしまいます。
幕末には、大なり小なり、佐幕派と尊王派と争いはどの藩でも起きたことかもしれません。
ですが、この本で描かれている物語は、映画にでもなりそうなくらい、面白いエピソードがあり、一気に読んでしまいました。
歴史好きには、お勧めしたい一冊です。